今日、天気予報では、午後から雨の予定と言っていたが、朝から冷え込んでいたせいか、東京では珍しい、大雪が降った。いつもなら何も思わない、むしろ綺麗だと思うその雪に、跡部は腹を立てていた。
「(・・・ったく、雪でテニスが出来ねぇなんて・・・・・・。)」
大雪だったため、雪が積もり、テニスコートが使えなくなったのだ。だから、男子テニス部は、少しミーティングをしただけで、今日の部活は終わった。
「(・・・どこか、寄ってから帰るか。・・・・・・ん?あれは・・・。)」
そう思った、彼の視線の先に、同じ制服を着た、1人の少女が寒そうに立っていた。
「おい、お前。こんな所で何してやがんだ?」
「え・・・。・・・・・・跡部先輩?!なんで、こんな所に?」
「俺の質問には、無視か?」
「あっ・・・!すいません・・・・・・!私は、人を待ってるんです。」
「人・・・?デートか?」
そう跡部は、冷やかすように言った。しかし、彼女はサラリと流した。
「・・・だといいですけどね。」
そう言った彼女の声は、どこか淋しそうで、跡部は気になった。
「・・・誰を待ってるんだ?」
「橋山先輩です。」
――橋山。名前までは知らないが、苗字は跡部も知っている。3年で、演劇部だ。
「お前、アイツと付き合ってるって言うのは、本当だったのかよ。」
「つ、付き合っていませんよ!・・・というか、そんな噂、流れてるんですか?」
「・・・・・・あぁ。」
噂はそれだけではない。・・・が、この少女に言う必要も無いので、跡部は黙った。
「でも、跡部先輩。私のこと、知ってるんですか?その噂の人と私は、別の人かもしれませんよ?」
「1年のだろ?」
「し、知ってるんですか?私のこと?!」
、と言われた少女は、とても驚いていた。橋山は人気もあり、演技も上手いので、この学校内では、名が知れている。他校でも、もしかしたら有名なのかもしれない。そして、跡部。彼は、人気もあり、テニスは全国レベル。学校内はもちろん、他校でもとても、有名だ。・・・その跡部が、なぜ自分のことを知っているのか。
「この前の文化祭で、演技してたじゃねぇか。」
「た、たしかに、してましたけど・・・。でも、脇役だったじゃないですか。」
「脇役がいてこそ、主役が引き立てられるんだろうが。」
「そうなんです!だから、私、主役をやるより、脇役の方が好きなんです!それで、この前の文化祭でも・・・。・・・って、すいません。つい、語ってしまいました・・・。」
さっきまで、大人しく話していただったが、どうやら、演技のことになると、熱くなってしまうところがあるらしい。
「・・・好きなんだな、演技。」
「はい!演技はするのも、見るのも大好きです!それで、今日、橋山先輩に映画を見に行こうか、って誘われて・・・。」
「向こうから、誘ってきたのか?」
跡部は、が言い終わるのも、さえぎり、急いで聞いた。
「えっ・・・。はい・・・。・・・それが・・・・・・?」
が戸惑いながらも、答えると、跡部は更に、真剣な表情で聞いてきた。
「お前、何時から、ここにいる?」
「12時半頃だったと思いますけど・・・。」
学校が終わったのが12時だから、は家には帰らず、そのままここに来ているのだろう。
「じゃあ、お前・・・。何も食べずに1時間半も、ここにいたのかよ。」
そう、今は2時過ぎなのである。
「・・・まぁ。」
「待ち合わせは、何時なんだよ。」
「・・・・・・1時です。」
そう、は、小声で言った。
「お前、知らねぇのか?橋山は女好きで、しょっちゅう付き合う女を変えてる、って話だ。それと、さっきは言わなかったが、もう1つ。流れている噂がある。・・・それは、アイツから何処かへ誘った時は、終わりを意味・・・・・・。」
そこまで言って、跡部は言い過ぎたことに気付いた。
「・・・・・・悪い。」
「いいんです。1時間も待ってる私が、馬鹿なんですから。・・・馬鹿にされてもよかった、無視されてもよかったから、せめて、ここを通ってくれないかと、期待した私が馬鹿だったんです。」
そう言ったは、笑顔だったが、とても淋しそうだった。
「お前、橋山のこと・・・。」
「私は好きでした。本気で・・・。でも、1度も付き合おうとは、言われていませんし、自分からも言ったことありません。つまり、終わりも何も、始まりすら無かったんです。だから、気にしていません。」
空元気であるのはわかるが、さすが演劇部。本当に何も気にしていないかのように、一瞬見えてしまった。
「あれ?ちゃん?」
後ろの方から、そんな声が聞こえてきた。
「橋山先輩・・・?」
がそう言って、振り向くと、橋山・・・・・・と、見たことも無い女が立っていた。
「誰?この子。」
橋山の隣に立っている、女がそう言った。
「俺の部活の後輩だよ。」
それ以外の何でもない、と言うかのように橋山は笑顔で言った。
「そうそう。今日はゴメンね。コイツと約束してるの、忘れてて、さ。」
コイツ、と隣の女を指さして、橋山は言った。
「いえ、いいです。そういうこと、私もありますから。・・・また、部活の時に、演技を教えてください。」
も、何ごとも無かったかのように、話を続けた。
「うん。じゃあね。」
そう言って、橋山と見知らぬ女は去っていった。
「ねぇ、あの子。本当にただの後輩?・・・もしかして、元カノとかじゃないでしょうね?」
と、女が問い詰めているのが、聞こえた。可哀相な奴だ、と跡部は思ってしまった。
「そうだよ。何、疑ってるわけ?俺が好きなのは、昔から、お前だけだって。」
「本当?」
「あぁ。じゃ、証拠を見せてあげよう・・・。」
そう言うと、橋山とその女はキスをした。・・・まるで、に見せつけるかのように。思わず跡部は、橋山を呼び止めようとしたが、が可哀相なので、止めておいた。そのかわり、を抱きしめた。
「あ・・・とべ・・・先輩・・・・・・?」
は驚いていたが、さっきのことがショックで、声が出せないようだった。そして、こう言った。
「・・・しばらく、こうさせてもらって、いいですか・・・・・・?」
「あぁ・・・。」
そして、は跡部の腕の中で、静かに泣いていた。
「今日は、ありがとうございました。」
また、得意の空元気で、はそう言った。
「あぁ・・・。・・・そういえば、お前。下の名前、っていうのか。」
跡部は、あえて、話を逸らした。しかし、も気にせずに続けた。
「はい。 っていいます。今後、学校内の劇等で、注目して下さい。」
そう言って、は笑った。
「・・・わかった。」
そう言って、跡部も微笑んだ。
「・・・そうだ、お前。昼飯、まだだったよな?」
「はい。」
「俺の家で食っていけ。」
「え?いいですよ。」
は、これ以上、迷惑をかけるのは悪い、と思っているようだった。
「ついでに、好きな映画も見ていけ。お前、橋山と見る予定だったんだろう?」
「そうですけど・・・。」
「俺の家には、ホームシアターがある。」
「え?本当ですか?!」
しかし、「ホームシアター」という言葉に、気持ちが揺らいでしまった。
「あぁ。最新の映画のDVDもあるぜ?」
「うっ・・・・・・。」
はまだ迷っていたが、跡部は何かを思い出したように言った。
「・・・そうだ。さっきのお前の質問に、答えてなかったな。」
「さっき・・・ですか・・・・・・?」
何のことか、さっぱりわからない、といった顔をしているに、跡部は説明した。
「あぁ。さっき・・・
『跡部先輩?!なんで、こんな所に?』
って言ってたじゃねぇか。」
「あっ。そういえば。」
ハッ、としては思い出した。
「その答えだが・・・。俺は、この雪の所為で、早く部活が終わって暇だから、この辺を歩いていた。」
「そうだったんですか。外の部活は、天候に左右されますもんね。」
跡部は、続きを話した。
「だから、今から予定も無い。・・・で、ちょうど俺と同じく、予定の無い奴が目の前にいる。」
「・・・あっ。私のことですか・・・。」
「それで、だ。俺の家に来ないか?」
そうして、跡部は初めの誘いに戻った。
「・・・そういうことですか。でも・・・・・・。」
しかし、まだは迷っていた。
「じゃあ・・・、俺が暇だから、来い。ちなみに拒否権はねぇ。わかったな?」
跡部は、そう言った。
「・・・それじゃあ、お言葉に甘えて・・・・・・。」
そして、2人は映画の話で盛り上がり、仲良くなった。・・・が、まだまだ事件は起こるのであった・・・・・・。
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オリジナルキャラが出てきちゃいました・・・!
同じ名前の方がいらっしゃたら、スミマセン・・・。
っていうか、知りもしないくせに、演技が好きなんて話を書いてしまい、すみません・・・!
演技で空元気、っていう文が書きたかったんです!本当、すみません・・・。
謝ってばかりですが、後者は特に、演技に詳しいお友達がいるので、本当すみません・・・(笑)。